革命のdisrupt /チャンピオンとChampionの違い / 「メタ」って何?(引用:Tedより「アダム・グラント: 独創的な人の驚くべき習慣」)
今回、私は久々に10分超えのTedを視聴した。
素晴らしいモノを生み出す「オリジナル」の人は一体どんな人間なのか。その人物像をアダム氏は自身の経験を踏まえて明らかにする。
前半のキーワードは「前倒し魔と先延ばし魔」。
後半のキーワードは「失敗と恐怖」。
詳しい内容は実際に見てもらうとして、ここでは気になった英語表現をピックアップしていく。
- 1.変革のdisrupt
- 2.come to 不定詞とcomeの原義
- 3.championの考察
- 4.ずる賢いcute
- 5.one of、汲み取るべきか。
- 6.「サボることだけで手一杯」?
- 7.metaがくっつくと・・・
- 8.地獄のAgony
- 9.強調文の模範的使い方
- 10.「見限る」の英訳
- まとめ
1.変革のdisrupt
We're going to try to disrupt an industry by selling stuff online. (0:20)
公式の日本語訳では「オンライン販売に参入して業界を賑わせるつもり」。ただ、自分的には「オンライン販売に参入して業界に変革を起こす」と訳した方が良いと考える。
というのも、気になったポイントはdisrupt。
disruptは[to throw into disorder(混乱をもたらす)]。
更に限定的に[to change the traditional way that an industry operates, especially in a new and effective way(主に実用的で新しい方法を使って、業界の従来の在り方を変える)]という意味もある。
〈※前者はMerriam-Webster、後者はCambridge Dictionaryから。〉
だから、思い切って「変革」というインパクトの強い言葉を使ってもいいだろう。実際、主語の学生たち(We)が興したWarbyParkerは通信販売業界に「変革」をもたらしている。
2.come to 不定詞とcomeの原義
I've been studying people that I come to call "originals."(1:13)
日本語訳は「私は『オリジナルな人』を研究しています」。
【come to+動詞の原形】で「~するようになる」。
comeの原義から考えるに「~できる状態に達する」。
となると[people that I come to call "originals."]は、「私が『オリジナル』と呼ぶことができる状態に達した人達」。
文脈から見るに、アダム氏を「呼ぶことができる状態」に至らせたのは、アダム氏本人の認識の変化。つまり、「私が心理的抵抗なく『オリジナル』と呼ぶことができる状態に達した人達」→「私が『オリジナル』と認めた人達」となる。
訳としては「オリジナルな人」で事足りるが、私はここで【come to+動詞の原形】の原理を解明することは重要だと考える。なんとなく意味だけ理解していては、今後自信をもって英文読解ができにくいからだ。
3.championの考察
Originals are nonconformists, people who not only have new ideas but take action to champion them. (1:17)
日本語訳は「オリジナルな人は迎合せず、新しいアイデアを持っているだけではなく、アイデアを守るために行動します」。
興味深い英単語はchampion。
今回は動詞として「(人や主義を)擁護する、守る」の意味で使われている。
チャンピオンと言えば「勝者」のイメージが根強いが、「(熱心な)擁護者、推進派」という意味合いもあるのだ。
私が思うに、これは高度な弁論術を誇るべき教養として考える欧米の価値観の表れだ。パトリック・ハーラン著作『ツカむ!話術』(2014年出版)でも書かれているように、アメリカ人は幼い頃からプレゼンの教育を受けている。イギリスにも、コーヒーハウス発祥の地であるため、教養として弁論術に重きを置く文化がある。
故にchampionには「熱心な擁護者=称えるべき存在」というニュアンスが含まれているのではないのか。面白い。
ツカむ!話術 パトリック・ハーラン:一般書 | KADOKAWA
4.ずる賢いcute
ある日、一人の学生がアダム氏にこう言った。
「先延ばしにしている時ほど 創造的なアイデアが浮かぶんです」
これに対するアダム氏の返答。
"That's cute, where are the four papers you owe me?" (3:09)
「そりゃ結構だけどレポート4本の提出はどうなった?」
注目すべきはcuteの意味。cuteには「可愛い」の他にcleverと同じ「利口な」という意味もある。
後半の内容から考えるに、[That's cute]には「そりゃ賢い言い訳だな」というニュアンスがある。cleverが頭の回転の速さを褒める言葉なので、間違いないだろう。
5.one of、汲み取るべきか。
she was one of our most creative students, (3:13)
日本語訳は「彼女は最も創造性豊かな学生です」。
正直、[one of]があるので、「最も」ではなく「屈指の、指折りの」と訳した方が原文の意味に近づくのではないか。
「彼女は教え子の中で特に創造性豊かです」と訳すのも良い。
6.「サボることだけで手一杯」?
the people who wait until the last minute are so busy goofing off that they don't have any new ideas. (3:56)
日本語訳は「最後の最後まで先延ばしにする人たちというのはひたすらサボっているので新しいアイデアなど持てません」。
注目すべき点は[so busy goofing off]という表現。直訳すると「サボることで忙しい」。
意味が相反する単語が隣接していて、英文表現の自由度の高さを感じさせる。このような表現があるから、英文読解は面白い。
7.metaがくっつくと・・・
I metaprocrastinated, (5:29)
metaprocrastinateは造語である。辞書に存在しない言葉だ。
この単語を解き明かすヒントは接頭辞のmeta。ギリシア語で「高次な-」「超-」「-間の」「-を含んだ」「ーを入れた」「-の後ろの」等の意味がある。更にWikipediaには以下のような解説がある。
ある対象を記述したものがあり、さらにそれを対象として記述するものを、メタな○○、あるいは単にメタ○○と呼ぶ。
以上のことを踏まえると、meta(高次の)+procrastinate(先延ばしにする)は「自己の先延ばしを先延ばす」と解せる。実際、日本語訳は「先延ばしを先延ばししました」となっている。
8.地獄のAgony
It was agony. (6:00)
日本語訳は「死ぬほど苦しかったです」。
agonyの意味は[extreme physical or mental suffering]。日本語訳は決して大袈裟な訳ではない。何せ海外には『Agony』と冠した真正な地獄を巡るサバイバルホラーゲームがあるぐらいである。
アダム氏も「イット、ワズ、アガニー」と一語一語強調し、当時の辛さを表現している。
9.強調文の模範的使い方
And sometimes, it's not in spite of those qualities but because of them that they succeed. (14:43)
日本語訳は「そういう面が邪魔になるどころか むしろ助けになって 彼らを成功に導くのです」。
一見分かりにくいが、強調文になっている。本来の語順は以下の通り。
[They succeed not in spite of those qualities but because of them.]
「彼らはそういう面があるにも関わらず、ではなくてそういう面があるから成功する」
そしてnot以下の文を強調する訳だが、[those qualities(そういう面)]を最初に持ってきてるお陰で、日本語訳が意味が通る文に仕上がっている。
10.「見限る」の英訳
Don't write them off. And when that's you, don't count yourself out either. (14:51)
日本語訳は「見限ってはいけません。それが自分自身の場合もやはり切り捨ててはいけません」。
[write off]には多くの意味があるが、その中に「だめだとみなす、 見限る」という意味がある。加えて[count out]は口語で「除外する」と訳せる。
まとめ
disruptにchampionにcute。一語一語に複数の意味が込められている。
全部紹介しきれなかったが、[get green light]や[the driver of the effect]など、汎用性があって且つ面白い英語表現がスピーチの中に溢れている。
ただ、溢れすぎて予想の5倍以上の制作時間がかかったので、次回ある時はボリュームダウンするかもしれない。